- 31.F10Tの亜鉛めっき高力ボルトの可能性は?開く
現在使用が認められているのは、Q.11にも記したようにF8Tまでです。しかし鋼材の高強度化に対応するにはF10Tの溶融亜鉛めっき高力ボルトセットがある方が望ましいことはいうまでもありません。
F10T相当の強度を持つ亜鉛めっき高力ボルトの製作は、焼き戻し温度の高い高張力鋼を使用することにより可能です。しかしながら遅れ破壊の可能性を否定できないということで現在はまだ認められていないわけです。
遅れ破壊があるか否かの確認には暴露試験による方法が最も信頼性がありますが、これには長期にわたる試験が必要となります。現在このための試験が行われているところですが、9年間の試験結果では酸洗時間の長いF10Tの亜鉛めっきボルトでも遅れ破壊は生じていません(注)。
一方、溶融亜鉛めっきされたボルトは鉄の腐食を防止する機能があるため、鉄の腐食により発生する水素がなく、従って外部から侵入する水素原子を遮断するには非常に有利です。これらのことも考慮し、データの蓄積がすすめば溶融亜鉛めっきのF10Tボルトがいずれ認定される時がくると考えています。注:平成12年11月10日「さびを防ぐ」技術講演会(大分会場)
テキスト p.27-28
- 32.室内温水プールに亜鉛めっき鋼を使用したときの耐久性は?開く
結論としては大丈夫です。私達が追跡調査した実例の一つを次にご紹介します。
調査対象 青森県総合運動公園屋内プール
(所管 財団法人 青森県スポーツ振興事業団)調査日 1999年6月10日 施設供用開始 1976年 主梁とラティス部について、亜鉛めっき皮膜の残存量を測定した結果が次の表です。測定は膜厚計でμm単位で表示されますので、表では膜厚の測定値と平均値および平均値に対応する平米当りの亜鉛皮膜重量(g/m2)への換算値を示してあります。
主梁板厚=9mm ラティス板厚=5mm
測定位置 南側東寄り 南側中央 南側西寄り 北側東寄り 測定回数 主梁 ラティス 主梁 ラティス 主梁 ラティス 主梁 ラティス 1 154 122 229 116 169 127 157 117 2 150 120 212 114 162 140 157 92 3 155 112 200 107 153 130 153 101 4 154 116 174 128 142 136 145 95 5 157 125 195 115 147 146 143 91 平均膜厚(μm) 154.0 119.0 202.0 116.0 154.6 135.8 151.0 99.2 重量換算(g/m2) 1109 857 1454 835 1113 978 1087 714 建設当初の膜厚測定値が残っていないため、23年間で亜鉛めっき皮膜がどの程度消耗したかは残念ながら不明です。しかし例えば主梁については平均151~202μmすなわち1,087~1,454g/m2の亜鉛が残存していることから見ると、腐食による減量は僅かであり、今後とも数十年の寿命が期待されます。
ラティスは平均値が99.2~119μm(714~857g/m2)で主梁に比べると小さい値ですが、これは板厚が5mmであることを考慮すれば、製造直後に見られる通常の値とほとんど差がありません。
以上のことからも、これら亜鉛めっき鋼材の耐久性に関しては、製造後23年経過した現在でも全く問題はないと言ってよいでしょう。
- 33.亜鉛めっき鉄筋の国内における使用実績は?開く
沖縄県においては、周囲を海に囲まれており腐食環境が厳しいことから、これまでに相当量の亜鉛めっき鉄筋が使用されております。沖縄県以外の地区における実績はまだ少なく、これからの伸びが期待される分野です。
下表は平成7年度から平成16年度までの沖縄県における亜鉛めっき鉄筋の出荷高と主な工事実績をまとめたものです。
沖縄県における亜鉛めっき鉄筋の出荷実績(単位:トン)
年度 出荷実績 主な工事 平成7年度 542 ・東平安名崎公園管理棟建築工事 ・沖縄県女性総合センター 平成8年度 518 ・県民広場地下駐車場建設工事 ・市営安謝団地 平成9年度 632 ・栽培漁業センター ・那覇空港ターミナル(ベランダ部分) 平成10年度 713 ・栽培漁業センター増設工事 ・饒波高架橋上部工 ・那覇空港ターミナルビル 平成11年度 514 ・喜屋武高架橋上部工 ・栽培漁業センター増設工事 ・首里城二階殿工事 ・東風平高架橋上部工 平成12年度 220 ・那覇港(新港ふ頭地区)道路(空港線)三重城側立坑下部工事 ・真玉橋橋梁整備工事 ・津嘉山高架橋下部工 ・豊見城地区IC ・中部病院 平成13年度 284 ・神森中学校 平成14年度 267 n.a. 平成15年度 331 n.a. 平成16年度 321 n.a. 下表は平成17年度からの亜鉛めっき鉄筋の全国の出荷高です。
全国における亜鉛めっき鉄筋の出荷実績(単位:トン)
年度 出荷実績 平成17年度 559 平成18年度 996 平成19年度 702 平成20年度 551 平成21年度 955 平成22年度 856 平成23年度 1045 平成24年度 838 平成25年度 586 溶融亜鉛めっき鉄筋を使用したコンクリート工事の実例写真
鉄筋工事全景 部分拡大(1) 部分拡大(2)
- 34.亜鉛めっき鋼材とコンクリートの密着性は?開く
コンクリート中に埋設された亜鉛めっき鋼材とコンクリートとの密着性についてはこれまでにもいくつかの報告がありますが、亜鉛めっき鉄筋とコンクリートとの密着性に関するものが主で、形鋼など一般鋼材に関しては極めて限られたものしか見当りませんでした。
最近日本鉱業協会発行の「鉛と亜鉛」誌(2003年1月号)にH形鋼などとコンクリートとの付着特性に関する研究報告が掲載されましたので、以下に概要を記します。
「溶融亜鉛めっきとコンクリートの付着特性について」1)
1.実験方法
(1)試料
1)埋設用試験片
無めっき鋼材及び亜鉛めっきした鋼材について下記寸法、形状の試験片を使用
引抜試験用 平鋼 (SS400 50mm×4.5mm) 等辺山形鋼 (SS400 50mm×50mm×4mm) H形鋼 (SS400 100mm×100mm×6mm×8mm) 割裂引張試験用 平鋼板 (SS400 30mm×4.5mm) 2) コンクリート供試体
引抜試験用供試体 300mm×300mm×300mmの立方体に上記形鋼を埋設 割裂引張試験用供試体 JIS A 1132 による圧縮強度試験用供試体に上記平鋼板を割裂面にそって埋設 試験材令 28日、91日 3) コンクリートの品質
JIS A 5308に規定された生コンクリートを使用
スランプ 9.5cm
圧縮強度‥‥現場空中養生 19.5N/mm2(28d)、25.5N/mm2(91d)2.実験結果
(1)引抜試験
各供試体について引張試験を行い、最大付着強度(付着強度 – すべり曲線の勾配が急変する点の強度)を試験片の面積(試験片のコンクリート埋設面積)当りに換算したものが次の図です。
引抜試験結果
FB-N:平鋼板(無処理) FB-Zn:平鋼板(亜鉛めっき) L-N:等辺山形鋼(無処理) L-Zn:等辺山形鋼(亜鉛めっき) H-N:H形鋼(無処理) H-N:H形鋼(亜鉛めっき) 図で見る通り、平鋼板及び等辺山形鋼については亜鉛めっき鋼の付着強度が大きいことがわかります。H形鋼についてはその差は明確ではありませんでした。この理由としては、H形鋼のような形状の複雑な試料では、試料とコンクリーとのつき回りのバラツキなどの変動要因が影響したと考えられます。
(2)割裂引張強度試験
圧縮強度試験用コンクリートに平鋼板を埋設した供試体について、割裂引張強度試験を行いました。平鋼板を埋設していない場合と比較して割裂引張強度は低下しますが、その低下率が小さい試料ほどコンクリートへの付着力が大きいと考えられます。次の図は材令28日および91日の試料について試験した結果です。
割裂引張試験結果
材令28日、91日のいずれについても亜鉛めっき鋼材の方が引張強度が高くなっています。このことから相対的ではありますが、付着強度としては亜鉛めっき鋼材の方が高いといえます。
なお、割裂面の状態が上図右下の写真で観察されますが、無処理鋼材と接していたコンクリート面はほぼコンクリートのままの外観、亜鉛めっきと接していた面は表面が変色していることがわかります。
X線回折の結果によると、この部分にはCaZn2(OH)6・2H2O成分が認められました。この成分はコンクリート中における亜鉛めっき材料の耐食性を向上させる一つの生成物としてすでに報告されていますが2-5)、コンクリートとの付着強度にプラスの影響を与えている可能性も考えられます。3.参考文献
- 村上和美、兼松秀行、市野良一、沖 猛雄;鉛と亜鉛 Vol.40, No1, p38-43(2003)
- T.Oki; 5 th Asia-Paciffic General Galvanizing Conference Abstracts(Busan), p20-p31(2001)
- K.Murakami; 5 th Asia-Paciffic General Galvanizing Conference Abstracts(Busan),p209-p221
- 沖 猛雄; 鉛と亜鉛,Vol39, No.2, p2-p9 (2002)
- 村上和美, 兼松秀行, 市野良一, 沖 猛雄;鉛と亜鉛, Vol39, No4, p6-p11(2002)
- 35.亜鉛めっきの耐食性を短時間で判定する方法は?開く
亜鉛めっきの耐食性は、種々の環境に5年~10年暴露した結果をもとに、その年間腐食減量から算出されます。しかし鋼構造物の設計に際して防錆仕様を決定するのに5年~10年かけるわけには行かない、もっと短期間で推定する促進試験方法はないのか、との疑問が寄せられる場合があります。
しかし亜鉛めっきに関しては、ある促進試験方法での1時間が実暴露の何年に相当する、という推定を可能にする試験方法は現時点では確立されていないといっていいでしょう。その理由は、亜鉛の防食機構が不動態皮膜によるものであり、自然環境における亜鉛の不動態皮膜の破壊と再生のメカニズムを促進しながら再現できる試験方法でなければ、相関性の高い判定ができないからです。
ステンレス鋼のような、不動態皮膜の再生が非常に早い金属についても、通常よく利用される塩水噴霧試験法では相関性が低く、耐候性の評価には不向きとされています。屋外環境をモデル化した上でのCCT試験法の適用が検討されている段階です。
塩水噴霧試験法は、比較的簡単な装置で腐食の進行状況を観察できるためよく利用されていますが、防錆機構の異なる表面処理法の順位付けに利用したり、この試験方法での1時間は大気暴露では何年分に相当する、といった判定には十分な根拠なしに適用すべきではない、というのが現在での考え方です。亜鉛めっきは大気中で生成する不動態皮膜によって表面を保護するものですが、塩水噴霧試験ではこの不動態皮膜を強制的に破壊して腐食を促進させるものなので、この点を十分に踏まえて結果の評価をしなければなりません。
- 36.耐震補強に亜鉛めっきは使える?開く
亜鉛めっき鋼を使用して耐震補強がされている実例もあり、通常通りの使用で全く問題はありません。
亜鉛めっき鋼は温度に対しても耐久性があり、塗装のように熱で分解されることもなく、650℃で30分間加熱しても素地の鉄が亜鉛めっき皮膜の中に拡散して鉄濃度が上昇し黒灰色にはなりますが、さびに対する抵抗力はかえって増加する、との報告があります。
亜鉛めっき鋼で耐震補強された建物の例
表 亜鉛めっき鋼線を高温加熱(焼鈍)した時の耐食性
温度(℃) 時間(分) 皮膜中の
平均鉄濃度(%)全面赤錆
発生時間(週)加熱せず – 4.2 179 450 5 4.8 169 450 10 8.2 176 450 20 10.1 185 450 30 10.9 193 500 5 8.2 181 500 10 10.6 198 500 20 12.6 188 550 5 10.0 224 550 10 12.4 234 550 20 14.7 236 550 30 15.4 278 600 5 13.2 259 600 10 15.9 271 600 20 18.0 360 650 5 14.6 380 650 10 17.4 388 650 20 20.4 >503 650 30 21.6 >503 Zinc:Its corrosion resistance,p.77, C J Slunder and W K Boyd, Battel Memorial Institute.
- 37.溶融亜鉛めっきと有機系ジンクリッチペイントはどちらが優れているの?開く
溶融亜鉛めっきと有機系ジンクリッチペイントには、それぞれの長所があり、その防食機能も異なっています。
従って、一律に同じ耐食試験を行って、どちらが優れているといった比較は意味がありません。はじめに
昨今、「常温亜鉛めっき」と称してあたかも溶融亜鉛めっきと同じ、あるいは溶融亜鉛めっきより優れているといったユーザーに誤解を与えるような説明をしている有機系ジンクリッチペイントのメーカーもありますが、基本的に溶融亜鉛めっきと塗装は全く異なるものであり、その特性も大きく異なっています。
対象となる鉄鋼製品の使用環境を勘案した上で、溶融亜鉛めっきと有機系ジンクリッチペイントのそれぞれの長所を生かすような、言い換えれば「使い分け(棲み分け)」を行った選択が重要です。
溶融亜鉛めっきとは
溶融した亜鉛浴に鋼材を浸漬し、めっきを施す加工方法です。塗装や電気めっきと異なり、鋼と亜鉛は合金化反応で密着し、優れた密着性能を有しています。亜鉛めっき皮膜は、薄い緻密な酸化被膜で覆われて優れた防食作用があります。
また、亜鉛は鉄に比べて電気的に卑なる金属(イオン化傾向:Zn>Fe)であり、腐食環境下では鉄が錆びる替わりに亜鉛が腐食され鉄を錆から守る犠牲防食作用があります。
有機系ジンクリッチペイントとは
有機系樹脂をバインダーとして亜鉛末を主体に調合した塗料です。鋼の防食に有効で直塗り塗装以外に溶融亜鉛めっきの補修剤としても利用されています。溶融亜鉛めっきと異なり、いわゆる塗装を施す方法なので、しっかりした下地処理と塗装条件の管理を行わないと密着性に問題を生じます。
色々なメーカーから数多くの商品が販売されていますが、その性能は使用している原材料で左右されます。
- バインダー(樹脂)
アクリル樹脂、エポキシエステル樹脂、スチレン樹脂等、メーカーによって異なり、耐候性、耐摩耗性、密着性など注意が必要です。 - 亜鉛末
使用される亜鉛末の違いによって、塗料としての防食作用に影響があります。
溶融亜鉛めっきとの相対比較一覧表(相対比較:◎適 ⇔ ×不適)
項目 特性・項目 溶融亜鉛めっき ジンクリッチペイント塗装 防食機能 海水/海塩粒子 ×~△ 〇 きず(5mm以下)の防食 △~◎
幅5mm以下の不めっき、きずであれば犠牲保護作用の効果がある×~△
きず部の犠牲防食作用はあまり期待できない太陽光 ◎ △~○ 風雨 ◎ ◎ 荷扱い 耐きず性 ◎ × 耐摩耗性 ◎ ×~△ 加工・施工 下地処理(ブラスト処理等) めっき工場にて酸洗~めっきの連続加工 下地処理後素材表面が酸化しないうちに塗装 表面処理 条件設定 塗装条件設定必要
(吐出量、速度、距離等)膜厚規定 JIS H8641で規定 なし
目標の膜厚確保は複数回の重ね塗り必要めっき面又は塗膜補修 不めっき又は 塗り残し・きず タッチアップ等 タッチアップ等 - バインダー(樹脂)