FAQ

溶融亜鉛めっきFAQ

30. 亜鉛めっき割れの対策は?開く

亜鉛めっき割れと防止策について

冷間加工された鋼材には曲げ加工時の残留応力や溶接部の残留応力などが残っています。溶融亜鉛めっきの際にはさらに急速加熱、冷却による熱応力が加わるため、めっき前には顕在化しなかった溶接割れあるいは溶融亜鉛による液体金属脆化割れを生ずる場合があります。
溶接割れおよび液体金属脆化割れは溶接条件や加工条件、めっき作業条件のほかに、鋼材の化学成分との関連が強く、これらの要因が相互に関連しあって割れが発生すると考えられています。したがってこれらの要因すべてについて、出来るだけ割れに結びつかないような条件を選んで作業を進めることが割れを防止するための対策となります。
以下に割れ防止のための対策および割れが発生した場合の処置について概略を述べます。

めっき割れの防止対策

  1. 鋼材の化学成分
  2. 冷間加工
  3. 溶接部の割れ
  4. 亜鉛めっきにおける留意事項
1.鋼材の化学成分

鋼材の化学成分をコントロールすることにより、亜鉛めっきにおける割れ発生の確率を下げることができます。このため厳しい冷間加工を受け、溶接部分の多い強度部材等では鋼の主成分以外にB、Nb、Vなどの微量成分についても加味した「溶融亜鉛めっき割れ感受性当量(%)」を計算し、その値が規定値を超えないことを確認して使用せねばなりません。このため特にめっき割れの懸念のある部材については、鋼材発注の段階でめっき仕様であることをメーカーに連絡し、それに対応した鋼材を使用する必要があります。

2.冷間加工

めっきされる構造用鋼製品の冷間加工についてはASTM-A143「溶融亜鉛めっき構造用鋼製品の脆化防止と脆化検査方法」に記載があります。これを「亜鉛めっき鋼構造物研究会」が翻訳してカラーパンフレット「鋼構造物の溶融亜鉛めっき No.37(平成8年10月)」として配布しているので、以下にその内容を引用します。

『溶融亜鉛めっきされる製品の冷間曲げ加工について』

1. はじめに(省略)

2. ASTM – A143「溶融亜鉛めっき構造用鋼製品の脆化防止と脆化検査方法」(抜粋)

(1) 適用範囲

この規格は製作された鋼を溶融亜鉛めっきする場合、生ずるかも知れない脆化を防ぐ方法及び脆化を調べるための試験方法について定めている。
製作条件によって、鋼中に脆化を引き起こす要因があれば溶融亜鉛めっきによって加速されることがある。しかしながら、適正な製作方法およびめっき加工が行われた場合は、一般に溶融亜鉛めっきによって脆化を生ずるものではない。

(2) 定義

脆化鋼の延性が減少し、脆化した鋼が破壊する場合の特徴としては、少しの変形もしないで破断してしまうこと。
通常、溶融亜鉛めっき鋼に生ずる脆化の種類は、時効現象、冷間加工及び水素吸蔵に関係している。

(3) 脆化の要因

1)鋼の脆化又は延性の減少は歪-時効に関連していることがよくある。
歪-時効は延性と衝撃抵抗の減少を生ずるものであり、冷間加工によって誘発された歪の結果として、感受性の強くなった鋼に生ずる。
時効は室温で徐々に進行するが、時効温度が上昇すると加速的に進行するので、約455℃のめっき浴温では急速に進行するであろう。

2)水素脆性は鋼の水素原子の吸蔵によって生ずる。
水素脆性の感受性は鋼の種類、熱処理及び冷間加工の度合いによって影響を受ける。溶融亜鉛めっき鋼の場合には、めっき前の酸洗反応時に水素の吸蔵が起こる。しかしながら鋼中に吸収された水素はめっき浴中で加熱される際に部分的に放出される。
実際に溶融亜鉛めっき鋼の水素脆化性は、通常鋼材の引張り強さとして約1,100MPa(約112・/mm2)を超える場合、又は酸洗前に苛酷な冷間加工をされている場合のみに関係するものである。

3)冷間加工をされた鋼の延性の減少は、鋼の種類(強度レベル、時効特性)、鋼の厚さ及び冷間加工の程度等を含む多くの要因によるものであり、ノッチ、穴、小径の縁部、鋭い曲げ等で生じるような応力集中のある部分で顕著である。

(4) 鋼

 溶融亜鉛めっきには、平炉鋼、塩基性ム酸素上吹転炉鋼及び電気炉鋼を使用しなければならない。

(5) 冷間加工及び熱処理

1)中間寸法及び肉厚の厚い鋼板及び架線金物に対する冷間曲げ半径は規格又は、製鋼会社の仕様によって安全であると確証された値を超えてはならない。この基準は一般に結晶の方向、強度及び鋼種によって変わる。
冷間曲げ半径が肉厚の3倍以上である場合は、通常最終製品においてもその性質は変わらない。
通常、薄肉材に関しては鋭い冷間曲げ加工にも耐えられるが、特に苛酷な冷間加工をした場合には脆化を受けることもある。もし設計上ここに述べたよりも鋭い曲げ加工を必要とする場合、熱間加工、冷間加工にかかわらず、加工後焼鈍するか又は 5. 3) に述べる要領で応力を除去しなければならない。

2)肉厚1/4″(6.35mm)以内の小さな形鋼の場合は、打抜きによる冷間加工後、焼鈍又は応力の除去はおこなわなくてもよい。
肉厚5/16″~11/16″(7.94~7.46)の形鋼では冷間打抜き加工を行っても、その加工がよく管理されている工場で行われるならば、使用上大きな影響はない。肉厚3/4″(19.05mm)以上のものは打抜き後、その穴の周辺をすくなくとも1/16″(1.59mm)リーマー又はドリルによって削り取るか又は 5. 3) に述べるようにめっき前に熱処理を施されなければならない。

3) 5. 1) 及び 5. 2) に概説した原則に従った加工品の場合は、通常熱処理を必要としない。しかし、もし熱処理を必要とする場合は、溶融亜鉛めっきに先だって適正な熱処理をしなければならない。
冷間圧延、剪断端面、打ち抜き穴又は冷間成形棒鋼及びボルト等に例証される苛酷な冷間成形加工をおこなう場合は、1200~1300(650~705℃)の変態温度以下の温度で焼鈍を行わなければならない。
冷間曲げ加工や圧延成形等で、あまり苛酷でない冷間成形の場合は、応力を除去するのに最大1100(595℃)以下とすることが、極端な結晶粒の成長を避けるために賢明である。又鋼を完全に焼きならしを行うために、温度は1600~1700(870~925℃)にする。その温度における処理時間は約1h/in(肉厚25.4mm)とする。

(6) 亜鉛めっきのための前処理

1)水素は酸洗中に吸蔵され、3. 2) に述べたいくつかの例のようにめっき製品の脆化を促進する。この脆化又は表面の亀裂は、酸洗温度が高すぎる、酸洗時間が長すぎる、及び酸洗抑制剤が少なすぎるなどによって増大する。酸洗中吸蔵された水素は、酸洗後(めっき前)に300(150℃)に加熱するとほぼ放出される。

2)酸洗過多を防止する場合、ブラスト処理後、軽く酸洗を行う方法が用いられている。

(7) 脆化を避けるための責任

製品の設計及び製作並びに通常のめっき操作でも脆化しないような適正鋼材の選択は設計者及び製作者の責任である。めっき業者としては適正な酸洗およびめっき方法を採用しなければならない。

3. 冷間曲げ加工の曲率について

鋼種が適正であり、かつ適正な加工を受けた鋼材の場合、溶融亜鉛めっきされることによって「液体金属脆化割れ」を起こすことはない。しかし前述の通り、冷間で苛酷な曲げ加工を受けた部分は、めっき浴に浸漬時、「液体金属脆化割れ」を起こすことがある。ASTM-A143に記しているように、溶融亜鉛めっきされる製品の冷間曲げ加工の曲率については、「冷間曲げ半径が肉厚の3倍以上である場合は、通常最終製品においてもその性質は変わらない」としている。溶融亜鉛めっきされる部材の用途および特性を考え、この曲げ加工の曲率を今後の基準と考えるのが適正と考えられる。

溶融亜鉛めっきされる製品の冷間曲げ加工について(追加)

No.37号のパンフレットに掲載いたしました記事につきまして、下記の情報を関連して得ましたので以下にご紹介いたします。

冷間成形角形鋼管を柱素材として溶融亜鉛めっきして使用する場合

現在、建築物の柱材として最も広範囲な用途に使われている冷間成形鋼管の規格にはBCR・BCP*及びSTKR(JIS規格)があります。
冷間成形角形鋼管を柱素材として溶融亜鉛めっきする際には、熱応力、溶接部の残留応力および冷間成形による残留応力により、亀裂が発生することがあります。このめっき割れ感受性は、化学成分の影響を受けます。BCP、BCRはSTKRに比して化学成分を規制することにより、めっき割れ感受性が改善されていますが、めっき割れを防ぐのに不十分な場合もあります。従って、めっき仕様をメーカーに連絡し、それに対応した冷間成形角形鋼管を入手することが必要となります。

3.溶接部の割れ

鋼材の溶接割れを発生温度で分けると高温割れと低温割れがあり、発生位置で分類すると溶接金属割れ、熱影響部割れ、母材割れに大別されます。
これらの割れは亜鉛めっきの有無とは関係なく、鋼材の成分、溶接部に吸蔵される水素の量、溶接部の拘束度、熱履歴などの影響を受けて発生するので、設計・製作の段階から留意せねばなりません。さらに亜鉛めっきを行う場合は急速加熱、急速冷却というヒートショックがあり、また液体金属による固体金属への粒界侵入の可能性が加わるので、より細心の注意を払う必要があります。
溶接部の低温割れ感受性(および応力腐食割れ)に関しては、HAZ(溶接熱影響部)の最高硬さ(Hv max.)を求める方法が比較的簡単な方法として知られています(溶接学会編 「溶接・接合技術概論」p122)。
溶接残留応力を低減させる方法としては、構造物の形状・板厚(板厚比の減少)・溶接順序などによる拘束度の減少、入熱の上昇、溶接前後の予熱・再熱その他一般的な溶接割れ防止の対策を適用します。

4. 亜鉛めっきにおける留意事項

亜鉛めっき工程においては、前処理として酸洗が行われます。この時発生する水素が鋼中に吸蔵されますが、めっき浴中で加熱されて部分的に放出されるので水素脆性の起きる可能性は少ないとされています。ただし100kg/mm2を超える高張力鋼の場合はブラスト処理を主体とし、酸洗は軽度にとどめることとしています。
被めっき部材は比較的短時間で常温から溶融亜鉛浴の温度(430℃~500℃)にまで加熱されます。この時、亜鉛浴面付近の部材には大きい引張り応力がかかるので、浴中への浸せきはできるだけ高速(ex. V≧5,000mm/min)に行い、温度分布の不均一な時間を少なくする必要があります。

めっき割れの検査

めっき後の割れの検査で目視検査は欠かせませんが、微細な割れは目視では発見できません。したがって保安上特に重要な部分、構造的に応力集中の起きやすい部材に関しては受渡者間であらかじめ協議しておき、超音波探傷、浸透または磁粉探傷などの非破壊検査機器でチェックします。検査の場所はめっき工場あるいは組立工場となるので、それぞれ非破壊検査有資格者と検査機器を準備しておく必要があります。

割れの補修

亜鉛めっきの後に割れが発見された場合の補修としては、割れた鋼材の溶接による補修と溶接により損傷を受けためっき皮膜の補修の2種類があります。
溶接による鋼材の補修は、補修すべき範囲の決定→グラインダー等による欠陥部の除去→補修溶接→検査 の順に実施されます。この際、鋼材の補修部分の周辺は、溶接の熱のため亜鉛皮膜が蒸発または酸化されて防食機能を失っているので、この部分の補修を行うことが必要となります。
熱損傷をうけためっき皮膜は、亜鉛が蒸発して酸化鉄の地肌の露出した部分と、その外周の、亜鉛光沢を失い黄白色ないし淡褐色に変色している部分とからなります。皮膜の補修方法としてはジンクリッチペイント、溶射、亜鉛ハンダなどがありますが、簡便かつ確実な方法としてはジンクリッチペイントがすぐれているでしょう。
手順としては、損傷部のスラグ、酸化皮膜、よごれ等をグラインダー、ヤスリ等で除去→ジンクリッチペイントの塗布→乾燥→ブラッシング→ジンクリッチペイント塗布→乾燥→ブラッシング→ジンクリッチペイント塗布 の順に行います。